進化と社会心理学:情報論的探究のゆくえ

僕の専門分野は、社会心理学である。修士号は「社会情報学」だが、社会心理学における情報科学的な観点からの諸研究を続けている。特に、人間行動に関わる分析や、社会的ネットワーク,人工社会などに関する研究と発表を行っている。Java,C++などのプログラミング,そして複数のOSによる研究開発を行ってきている。

確かに、私の研究分野と進化や生物情報,バイオインフォマティクスとはかけ離れていると感じられるかもしれない。しかし、社会心理学は、その成立当初からすでに自己,人間関係,集団,社会システムにおいて、そのダイナミズム性が認識されていたと思われる。だが、その方法論的,技術的観点に恵まれてはいなかったと思っている。そのため、個々の領域に関する理論・実証に先鋭化するのみだったのではないか。しかし昨今の潮流において、幾つかの考慮するべき動きが現出してきている。それがシミュレーション研究による検証であり、進化的観点からの検証である。私は、既に遺伝的アルゴリズム(GA)を活用した人工社会シミュレーション研究を行い、研究発表してきており、こうした潮流を大きく発展させていきたいと考えている。

人間行動と認知における遺伝的特性とその影響は、昨今の遺伝学や生物情報学的な諸研究から解明が進んでいる。夙に、こうした諸知見は社会的生物たる人間の認知・行動を探究する社会心理学においても、その重要性と意義は高まりつつあると思う。実際、既に海外では、進化社会心理学と称する動きも出てきていることは事実である。しかし、ゲノム解析やこれに基づく人間行動のあり方を問うまでには到らず、社会的関係性や集団属性に関する「進化的パースペクティブ」を示しているだけなのが現状と思われる。社会心理学や社会科学におけるゲノム科学や生物情報学的知見と手法に裏付けられた進化的観点からの諸研究は、これからと考えている。

生物情報に関して、各種のシミュレーション研究が今後も重要なウェイトをもつだろうと考えていることは事実である。しかし、それだけでなく、人間の認知・行動,そしてこれに関わる多くの部分が遺伝的特質で説明と予測が行われていくことになるのは、時間の問題である気もする。既に、そうした倫理的懸念も惹起されていることもあり、社会的コンセンサスをいかに形成し、その技術的手法をいかに社会的に活用していくべきかを考える必要があると思われる。社会心理学を専門とする者として、こうしたゲノム科学とその社会的適用に関する社会的合意に関する諸研究も重要な課題として探究していきたいと思う。